食品業界に関わる誇りと願い
NPO法人食品安全ネットワーク理事 猪野 祐二
食品安全ネットワーク理事の一員として名前 を連ねている猪野祐二です。
2020年から続く、新型コロナウイルスによる人 流の停滞により、飲食業界は大変な打撃を受けています。食事をしながらの歓談の楽しさを奪われた多くの人が居たと思います。
飲食店に行くことを制限されているうちに家食に慣れ、外食の習慣がなくなってしまうのではないかと心配していました。日本で日常的な外食の 習慣が根付いてまだ、40年にもならないと思います。私が外食企業に入った当時は、まだ「飲食業=水商売」と言われていました。堅気の仕事ではなく、大学を卒業して入る会社ではないと言われていました。
1970年大阪万博があった年に「すかいらーく」 が誕生し、ファミリーレストランという家族で気軽に楽しめる飲食店が日本に誕生しました。私が入社したのは 1990年、3年前に出来た関西センター(西宮市鳴尾浜)の補充要員としての募集でした。入社時の社員教育で調理の基本を教わり、同時に叩き込まれた事は「我々は、水商売ではない。外食産業という新しい分野を作るのだ。」という心持、経営理念は「価値ある豊かさの創造」です。社員は出勤時、必ずスーツを着て家を出て、帰る時もコックコートからスーツに着替えて帰る事を教わりました。まず、社会人である事を教育されたのです。この考え方は、いまでも、身に沁みついていて、現職でも実践しています。そして新入社員研修では、入社するに当たり我々はお客様の命を預かる大事な仕事をしている事。厨房(調理場)は 神聖な場所である事を教育しています。教育を受けた時は、不思議に思っていた事ですが、その後いろいろな飲食店を見る事になるとスーツを着て出勤する飲食店はほとんど無く、なかにはジャージ姿で出勤しそのままスタンバイをしている店舗もあり、正直衛生面では雲泥の差が見られました。
すかいらーくに話をもどすと、西日本の店舗に食品を供給するセントラルキッチンとして設置された関西センター内には、細菌検査を行う検査室があり、今では当たり前ですが、製造部とは独立した「グループ食品衛生センター」という品質管理の専門部門がありました。毎日の工場内の衛生点検、製品や仕掛品の細菌検査と全国にある店舗の衛生状態の確認、衛生管理に逸脱が無いかなどを確認していました。当時は1日1店舗を徹底的に精査していました。
社員が出勤する前に店舗に着き、外観やバックヤードの施錠等を確認しながら社員の出勤を待ちます。社員が出勤したら同時に店舗内に入り、社員より早く白衣に着替え厨房の点検を開始します。前日の汚れ物やゴミが残っていないか、スタンバイ食材の日付け管理や先入れ先出しなどの確認を行います。この時重大なルール違反である室温解凍等があるとその場でセンター長である西田先生に連絡し、「警告」を発します。西田先生はご存知と思いますが、「手洗いのバイブル」「ストップ・ザ・食中毒」「経営者の為の食品衛生」など数多くの食品衛生についての書籍があり、手洗いは手を無菌にしなければならないと保健所が指示していた時代に目的を持った手洗い「目的的手洗い」を提唱し、今では当たり前になっている消毒と同時に手指の保護が重要であることを50年まえから訴えられていた先駆者であり、すこし偏屈な、とても頑固な先生です。
店舗点検では、食材のサンプリングと同時にふき取り検査を行います。まな板や冷蔵庫の取っ手、従業員の手指など1店舗で約20検体のサンプリン と器具類の保管状況、スタンバイ時の食材の取り扱い等を確認し、昼のピークが始まると控室に入り、観察したことを書面にまとめます。サンプリングした検体を検査指示書にまとめ、検査センターにFAXし翌日実施する検査の準備を始めてもらいます。
ピークが落ち着いたころに、店長に点検内容を伝え、改善点を伝えます。店舗の成績は細菌検査の結果を基に点数化されます。清掃等の主観的なポイントは100点満点の5点だけです。95点は細菌数や大腸菌群や黄色ブドウ球菌の検出などで計算されます。数値化する事で店舗の衛生状況を客観的に把握していました。店舗も検査員の主観ではなく何が悪かったのか、どこの洗浄が不十分だったのかが分かり、改善に取り組みやすかったと思います。 厨房内の食材の定位置管理や在庫量等は店舗開発、商品開発の段階で、既に本部で検討されていましたので、管理方法や厨房内での交差汚染が起きない様に設計されていました。ハード、ソフト両面から食品事故の防止と衛生管理について検討されていた事に先見性があり、 組織として徹底させる仕組みがあったおかげで 「外食産業」という新しい産業が産み出せたのだと思い、微力ながらその一翼を担ったことを誇りに思います。
これからも食品を扱う全ての人が、誇りをもって毎日の業務を行い、食品事故を起こさない管理のお手伝いが出来る事を私は望んでいます。
